今回のゲストは、ノライエ株式会社代表の牧野悦子(まきの・えつこ)さん。一級建築士と野菜ソムリエプロという異色な組み合わせの肩書を持つ。2015年に野菜ソムリエアワードで優勝して以来活躍の場を広げ、メディアにも多数出演している。牧野さんが楽しみながらソムリエの役割を果たしていることが、いきいきとした語り口から感じられた。
きっかけは大量に採れたジャガイモ
牧野さんは一級建築士として設計事務所勤務や県庁職員としてのキャリアを持つ。現在の仕事とはかけ離れた世界で活躍していた牧野さんが野菜に出会ったのは、県職員として秩父配属になったことがきっかけだった。「畑やってみないか?」というひょんな一言から農業を始めることになり、こんにゃくやジャガイモをものの試しに作ってみたのだという。当時は10種類ものジャガイモを植えたため、自分たちで食べきれないほど大量に収穫が出来たのだそうだ。なかなか口にすることのない珍しい品種も作っていたため、食べ方のレシピを添えてそのジャガイモを配っていた。「これをきっかけに野菜の勉強を始めて、ハマっちゃったんです。」牧野さんは笑顔で語る。2005年には野菜ソムリエの資格を取得。その後2008年にはさらに上のレベルの「野菜ソムリエプロ」となったのだ。
ソムリエは「伝える仕事」
「野菜ソムリエなら満遍なく学べるかな。」そんな気持ちで野菜の勉強を始めた牧野さん。ソムリエ資格の最初の授業はコミュニケーションについてだった。「公務員時代は真面目に粛々と働いていたから、伝える仕事って面白い!と思ったんです。」と当時感じた新鮮さを口にした。
それから「伝える仕事」を続けてきた牧野さんは、野菜ソムリエの活動発表の場である「野菜ソムリエアワード」で2015年に全国ナンバーワンに輝いた。次世代に野菜を繋いでいくために野菜を伝えてきた活動を発表したのだ。「農業を、野菜を楽しくしていこう。ファンを増やして不安を減らそう。」というのが牧野さんのメッセージだ。この受賞を経て、現在はNHKラジオや地域誌など各種メディアにも活躍の場を広げている。「伝える仕事」はまさに牧野さんの天職だ。
楽しんで伝える「エンターテインメント」の仕事
自身の仕事を「エンターテインメントだと思っている。」と熱く語る牧野さん。野菜とそれを使った料理をいかに楽しんでもらえるかがテーマだそう。目の前にいる人たちに自分の手で、言葉で、楽しさを伝えられる。建築の世界とはまた違うお客様との距離感を大切にしているのだ。
そんな牧野さんの名刺には「野菜でみんな笑顔」という言葉がある。美味しいものに触れると自然と笑顔になる。気心の知れた人たちと食べればもっと美味しく感じる。自分も相手も笑顔になって、その向こうにいる生産者さんも笑顔になる。「そんな風にみんなが笑顔になることができたらいいなと思っています。」そう語る牧野さんにも笑顔がはじけている。
食と住に見出したつながり
建築と野菜。一見かけ離れたところにあるような二つの要素も牧野さんの中では全て繋がっているのだという。建物は人が暮らし、食事をする空間。その食事をきっかけに家庭が明るくなり、暮らしが楽しくなる。そんな繋がりをイメージしながら仕事に取り組んでいるそうだ。
山の中の木があって、それを素材にして建物が作られる。手入れの施された山からは川が流れてきて、その水で野菜や果物が育つ。木材を生み出す山が生きているから畑も生きているのだ。二つの道のプロであるからこそ見出した繋がりであろう。「食と住のことは分かっているようで知らないことがたくさんあると思うから、私が伝えていきたいです。」牧野さんは私たちの何気ない生活を彩ってくれる唯一無二の野菜ソムリエだ。
地域密着型のソムリエとして
自身にとってソムリエとしての仕事はライフワークであると語る牧野さん。これからについて、「地域の食を使ったクラフトビールを作りたい。」と展望を口にした。地元で取れたものを発酵させてビールを作り、そのおつまみに野菜をつかったメニューを提案していきたいのだという。「うまみのあるトマトはビールに合うんです。旬のもの取り入れると理にかなった食になるから、旬のお野菜と一緒に旬のビールがあったら面白いはず。」熱のこもった語りからも、牧野さんのビールが出来上がるのはそう遠くないように感じられる。
夢が広がっても変わらないのは「地域に密着してやっていく。」という決意だ。地域密着型ソムリエとして、地元の食の何でも屋さんでありたいのだと牧野さんは言う。彼女のエネルギーで町に明るい食卓が増えていくに違いない。
食と暮らしとそれを取り巻く人々の笑顔のために、牧野さんは今日も野菜を通してワクワクを届け続けている。
※本文は、2019年11月11日の放送内容をもとに編集したものです。掲載情報は放送日当時のものです。ご注意ください。